政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
ひとりで戻った自宅は真っ暗で、静寂が漂っていた。

私には広すぎるこの家は本当に分不相応で、いつまで経っても慣れない。彼との距離感すらつかめない。

ほんの数十分前までの高揚した気持ちは微塵も残っていない。センサーで自動的に間接照明が灯された廊下をのろのろ歩いて自室まで進む。

自室のドアを開け、バッグを床に置いたまま、私はぺたりと座り込む。


私は何を期待していたの? 何を勘違いして浮かれていたの?


止まらない涙が床に丸い染みをつくる。
頭がどんどん冷えて、専務室の前で目にした光景を思い出す。


『約束したのに!』
『もう少ししたらふたりの時間がとれるだろ』


いくら鈍感な私でもわかる。ふたりが想い合っているということは明らかだ。

ずっとその可能性を考えていた。でも認めることが恐かった。

ふたりはとてもお似合いだ。
申し分のない容姿に付け加えて、立派すぎる家柄。幼い頃から共に成長してきたふたりが並び立つ姿はとても自然だ。

きっと将来の約束を交わしていたのだろう。それなのに私が邪魔をした。

彼は複合施設のために、私と婚姻関係を結ばなければいけなかった。そこに彼の意思は尊重されなかったのだろう。

皮肉なことに私もそれを望んでしまったから、結婚相手を探していたから。

どうして本当のことを言ってくれなかったんだろう。心から想っている人がいると教えてくれなかったんだろう。

言ってくれたなら、入籍なんてしなかった。同居なんてしなかった。

今までのようにのらりくらり祖母をかわすことだってできたのに。
私みたいなお荷物を抱え込む必要はなかったのに。
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