政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「ひとりで浮かれて、お弁当なんか作っちゃって馬鹿みたい……」


自嘲気味に漏れた言葉がさらに私を惨めにする。ヒクと強張った笑みがもれた。

私はまた間違えた。
ちょっと彼に優しくされて距離が近づいたと、妻として望まれていると自惚れてしまった。


彼の本当に大切な人はほかにいたのに。


赤名さんも平井さんも秘書だから、差し入れが本当は不要で迷惑だと表立って言えなかったんだろう。
私への気遣いの言葉を真に受けてしまった私はなんて馬鹿なんだろう。


「……言ってくれたらよかったのに」


私のことなんか本気で好きじゃないって。
あの告白はただ建前の妻への親愛の情だって。


「なんで優しくするの……?」


あなたの一番になれないのに優しくしないで。
私を選ぶなんて言わないで。


どうしてあなたが私が一番欲しかった言葉をくれるの。
どうして抱きしめるの。
どうしてキスするの。
どうして、どうして。


「うっ、ひっく……」


こみ上げる嗚咽を止めることができない。あふれ出す涙はとどまることを知らず、ワンピースに染みこんでいく。

大量の氷を呑み込んだかのように胸の中が冷たくて凍えそうだ。不安で孤独でどうしようもない。

差し伸べられる手の温もりを知ってしまった今の私には残酷すぎる現実。心が悲鳴を上げている。

彼の気持ちに気づかなかった私はなんておめでたいんだろう。
どうして私はいつも肝心なことに最後まで気づくことができないの。

そこまで考えた時、私は悲しい事実を想い知った。


「私、環さんのこと……」


恐くてその先を言葉にできない。唇が震えてしまう。

同時に口にせずにはいられない衝動にも駆られる。


「好き、なの?」


問いかけたところで返事は返ってこない。
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