政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
きちんと自分の気持ちを伝えることもできない、情けなくて手のかかる私。

こんな狡い私に環さんが惹かれる要素なんて何ひとつない。

胸が軋む。
心がバラバラに砕けそうだ。この恋は絶対に叶わない。


恋がこんなに痛くて苦しいものだなんて知らなかった。


誰かを本気で想うことがこんなにも切なくて苦いものだなんて思わなかった。


こんな私は泣く資格なんてないのに、苦い涙だけが零れ落ちていく。


突然、バッグに入れっぱなしになっている私のスマートフォンが着信を知らせた。

グイッと乱暴に涙を指で拭う。目の下の皮膚に爪が引っかかってひりつく。きっと赤くこすれてしまっているだろう。
そんな小さな痛みは私が隆を傷つけたことに比べたらとても些細なものだ。

着信相手は母だった。私は画面を押して応答する。
泣いていることを悟られないように小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける。

「……はい」
『彩乃ちゃん? 今、大丈夫? 食事中かしら』

母のいつもと変わらない柔らかな声が胸に響く。

「ううん、大丈夫」

食欲はない。持ち帰った弁当は紙袋からだして冷蔵庫の奥に隠すように入れた。

『よかった。ねえ、彩乃ちゃん、あなた来週末のパーティーの衣装はどうするの? 着物で出席するならこちらに置いてあるものを着る?』

パーティー? 何の話?

「お母さん、パーティーって何?」
思い当たることがなく、母に問う。

『嫌だ、彩乃ちゃん。環さんから聞いていないの? 以前に話していたでしょ、環さんの会社が手掛ける商業施設のこと。おばあちゃんが管理している地所の』

母が間延びした声で説明してくれる。嫌な予感がする。

スマートフォンを握る右手に無意識に力がこもる。
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