政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
『正式にその地所を環さんの会社に先日売却したの。地所の一部は賃貸にするみたいだけど。元々あの場所をおばあちゃんは早く手放したがっていたからよかったわ。それで複合施設を建設することのプレス発表会と関係者のみのパーティーがあるのよ。今後の顔合わせみたいなものかしらね』

建設に関わらない私たちにはあまり関係ないことだけど、と母は呑気に付け足した。

母の言葉に心が凍りついていく。
スマートフォンを握る手から感覚が抜け落ちていく。

そんな話は彼からひと言も聞いていない。私は招待されていない。

『彩乃ちゃん?』
「ご、ごめんなさい。環さん、最近すごく忙しくて何もまだ聞いていないの……」

回らない頭で必死に言葉を絞り出す。口から出た声は乾いていた。

『あら、そうなの? まあ環さんは多忙だものね。身体を壊さないといいけれど。ああ、でも、この間地所の売却の時に、秘書の方と出席するって言ってたかしら?』

母の無邪気な台詞が、ナイフのように私の心に深く突き刺さった。


秘書?


「それって……赤名さん?」
『さあ、名前までは存じ上げていないわ。いつも一緒にいらっしゃる細身の綺麗な人としかわからないわ』

おそらく赤名さんだろう。
彼の秘書で女性は赤名さんしかいないと以前平井さんに聞いたことがある。

頭から冷水をかぶったような気になる。心と身体がどんどん凍りついて感覚を失っていく。胸が苦しくて痛くて呼吸が苦しくなる。


どうして? どうして赤名さんなの? 私は名目だけでもあなたの妻なのに。それすらかなわないの?


『あら、母さんが呼んでるわ。今、ちょうど母さんの家で今度のパーティーに着ていく着物を一緒に選んでいるのよ。ごめんね、彩乃ちゃん! またゆっくり電話するわ。衣装は決まったら教えてちょうだい』

慌ただしくそう言って、母は通話を終わらせた。
< 104 / 157 >

この作品をシェア

pagetop