政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「……起きてたのか?」

躊躇うことなくリビングに入ってきた彼はいつも通りだった。彼のスーツには目立った皺もなかった。

台所のカウンターを挟んで彼と向き合う。


赤名さんとどこかに泊ったの?


そんな台詞が口から飛び出しそうで、唇をギュッと噛みしめた。私にそんなことを問う権利はない。

「彩乃?」
「お、おかえりなさい。お疲れ様です。すぐに朝食を準備しますね!」

クルリと踵を返して冷蔵庫を開ける私の背中に、彼が声をかけた。

「いや、今からすぐ会社に戻る。着替えに寄っただけだから」
「そ、そうですか……何かお手伝いできることはありますか?」

冷蔵庫のドアを見つめながら言う私。ドアにかけた指がほんの少し震えてしまう。


またすぐ赤名さん過ごすの?


嫌な醜い想像ばかりが膨らんでいく。

「必要ない。彩乃は今日休みだろ。ゆっくりしてろ」
いつもの彼の口調なのに、拒絶の言葉が胸に刺さる。

私にはできることが何もない。彼がリビングから離れていく気配を感じる。

「……それじゃ、お言葉に甘えて部屋に戻ります」
短く息を吐く。

独り言のように呟いて踵を返した途端、息を呑んだ。目の前に彼が立っていた。


「……泣いたのか?」


そう言って環さんは私の顔を至近距離から覗き込む。
吐息が触れそうな近い距離。

思わず顔を背けようとした私の顎を、彼は綺麗な指で掬い上げた。思わず目を見開く。


「目が腫れてるし、顔色も悪い。何があった? 寝ていないのか?」


詰問するような厳しい口調なのに、私に向ける漆黒の瞳は心配そうに揺れている。素顔を凝視されたうえ、泣いていたことを指摘され私は言葉を失う。

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