政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
事あるごとに『澤井家のお嬢さん』と周囲の人に見られることが嫌だった。

まるで真綿の檻の中に閉じ込められているような気がして、息苦しかった。

恋に憧れる思春期の頃も周囲の異性は皆我が家のことを知っていて、避けられている気がした。

実家とは関係なく、自分の存在価値を誰かに認めてほしかった。大袈裟に言えばしがらみのない世界を見たかった。

けれど現実はそんなに甘くはない。

内気で口下手な性格はすぐには変わらないし、ましてや恋の相手なんて見つかるはずもない。

そんな様子を見透かしていたのか、二十五歳を超えると、祖母からの詮索は日に日に強くなり、ひっきりなしに見合い話を持ってきた。

隆という彼氏ができた時、これで祖母に縛られなくて済むと安堵する気持ちのほうが大きかった。

別れた事実を祖母が知ったら、見合いの猛追をかけてくるだろう。三十歳というタイムリミットまではこの場所にいたい。

「とにかくおばあ様にはばれないようにしなきゃね。お見合い話、最近は落ち着いていたんでしょ?」

昼休みが終わりに近づき、私たちは店を出て会社に向かって歩き出す。師走の街並みはどこか忙しない。

道行く人々が歩く速度も心無しか速い気がする。
道路脇に並ぶ店頭を近くなったクリスマスのディスプレイが明るく彩っている。

ふと視線を向けるとすっかり葉が落ちた街路樹が見えた。

昨日まではそれほど寒さが厳しくなかったが、今日は随分冷え込んでいる。黒のノーカラーコートの前をしっかり合わせてマフラーを巻き直す。
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