政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
翌日、昼過ぎに帰宅した彼はとても疲れた顔をしていた。入浴をしてそのまま寝室で倒れこむように眠っている。


夕方過ぎ、私は台所で夕食の準備をしていた。

リビングに姿を現した彼はスーツを着込んでいた。調理の手を止めて、彼の立っているソファに近づく。

夕食について尋ねると、今から出かけるので不要だと言われた。

「……身体は大丈夫ですか?」

聞きたいことはたくさんある。でもどれも口にできない私は一番気がかりなことを尋ねた。

元々多忙な人だけれど、ここ数日は忙しさに拍車がかかっているように思える。


「ああ。明日から一週間アメリカに出張する。彩乃、弁当はどうした?」


突然の報告と質問に反応を返せない。喉がカラカラに乾いていく。

出張? また私はここにひとり取り残されるの? あなたはまた赤名さんとずっと一緒なの? ううん、それよりも。


「お弁当……?」


言葉が滑り落ちる。

まさか私が弁当を金曜日に差し入れようとしていたことを知っているの?

一気に身体が強張る。彼の目を直視することができない。


「金曜日に会社に来たと今朝、平井から聞いた……俺は受け取っていない。どういうことだ?」


まるで尋問するかのように彼が綺麗な目を眇めて私を見る。抑揚のない声が私を追いつめる。

平井さん! どうして話すの!

八つ当たりのように心の中で叫ぶ。


「彩乃」


彼の低い声が耳朶を震わせる。ビクッと肩が跳ねた。

彼の長い片腕が私の右肩をつかんで強引に自身に引き寄せた。トン、と私の身体が彼の胸の中に収まる。
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