政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「え……?」


相良さんの言葉をもう一度耳の中で反芻する。聞き間違いかと耳を疑う。


手に入れたい人? 守りたい人?


「もう一度伺います。あなたはどうして離婚届を持っているんですか? 華の話を聞く限り、あなたは離婚を考えるほど環を嫌悪しているように思えないのですが」

私は息を呑む。手にした缶コーヒーをギュッと握りしめた。

さすがは環さんの親友だ。逃げ道が見つからない。取り繕ってもすぐに見破られてしまいそうだ。

「ふたりがどういう経緯で入籍したかは環から直接聞いています。この結婚に嫌気がさしたのですか?」

だから策略結婚なんて反対したんです、と彼は苦渋の表情を浮かべた。

観念した私は、先程の母からの電話内容を伝える。彼のメリットがなくなったから、この結婚を解消すべきだと思った、とだけ伝えた。

さすがに赤名さんの夫である彼に、環さんが赤名さんを想っているようだとは言えなかった。

「ちょっと、賢人(けんと)!」

突然、女性の甲高い声が私たちの間に割り込んできた。聞き覚えのあるこの声は赤名さんのものだった。

「ああ、お疲れ様、華。さすが近くにいただけあって来るのが早いね」

全く焦る様子も見せずに、相良さんは近づいてくる赤名さんに話しかける。

「何を言っているのよ! 彩乃さんに失礼なことをしていないでしょうね⁉」

カツカツと忙しなくヒールの音を響かせ、彼女は私たちが座っている場所にやって来る。

「赤名、さん?」
突然現れた彼女に驚く私に、相良さんは落ち着いた様子で言う。

「あなたの誤解は、直接華に解消させたほうがいいかと思って、先程連絡したんです」
「賢人から連絡をもらってびっくりしたわ! 彩乃さん、どうして離婚届なんて……!」

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