政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
相良さんと私を交互に見ながら赤名さんが悲痛な声を上げた。

その様子は私が離婚届を取りにきたことを喜んでいるようには見えなかった。何よりも普段冷静沈着な赤名さんとは思えない焦った口調だった。

「彩乃さんが無事でよかった! 先刻環くん……、専務から彩乃さんが自宅の電話にもスマートフォンにも出ないって連絡があって皆で捜していたんです。私の独断で別の秘書にご自宅に向かわせて、部屋からの応答がないって報告を受けたところで……」

一気に捲したてる赤名さん。狼狽と安堵が彼女から伝わる。いつもとは違う彼女の様子に驚きを隠せない。

環さんが私に電話を? どうして? 急用があった?
 今はアメリカのはずだし時差だってあるのに。

不測の事態に混乱してしまう。

「赤名さん……出張に同行されていたのではないのですか?」
力なく私が尋ねると赤名さんは即座に否定した。

「いえ、同行しているのは平井だけですよ」

その返事に一瞬安堵してしまった私はどれだけ彼が好きで、どれだけ狭量なのだろう。

叶わない恋だと覚悟をしたはずなのに。

赤名さんは環さんを『環くん』と呼んだ。
環さんを彼女が名前で呼んだことに反応せずにいられなかった。

やっぱり、という気持ちとどうして相良さんと結婚したのか、という気持ちが交錯する。困惑する私の耳に相良さんの声が響く。


「……もしや彩乃さん、環が華を好きとか、華が環を好き、とか思っていませんか?」


的確過ぎる彼の言葉にギクリと身体が強張る。どう反応してよいかわからず目が泳ぐ。相良さんの目を直視できずに俯く。


どうしよう、気づかれている? でもどうしてそんなに冷静なの? まさかそれは周知の事実なの? 
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