政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「……あの、帰国って明日だったんじゃ……」
ふと思い出した私は彼に問う。

フッと彼は口角を上げて、私の髪を長い指で梳いた。

「彩乃の様子がおかしいから帰国日を一日早めた」
なんでもないことのように言う彼に私は目を見開く。

言わずもがな環さんのスケジュールはいつも過密だ。そんな状態なのに一日帰国を早めるなんてどれほど大変だっただろう。


「どうして……」


私のため、なの?


「離婚届を取りに行ってた彩乃がそれを聞く?」


わざとらしく彼が拗ねたように言う。そんな表情をする彼が意外で驚く。

「彩乃ときちんと話をしたかったから。本当は出張前にしたかった。でもどうしても時間が取れなくて……帰国してよかった。おかげで彩乃を失わずにすんだ」
そう言って彼は私の腰を抱きしめる腕に力を込めた。

「ご、ごめんなさい……」
彼の悲しそうな表情に胸が痛んだ。彼は小さく首を横に振った。


「間に合ったから、いい。でもあんな想いはもうしたくない」


帰宅した彼は私の不在に気づき、すぐに赤名さんをはじめとした秘書の皆さんに連絡をしたそうだ。赤名さんは既に会社を出ていて連絡がとれなかったらしい。

ギリギリでの急な予定変更のため、赤名さんは彼の帰国日が早まったことを知らなかったそうだ。

「赤名の言付けを受けていたほかの秘書から、彩乃が離婚届を取りに区役所に向かったと報告を受けた時は一瞬、頭が真っ白になった。離婚なんて絶対にしないし、させない、改めてそう思った。区役所に向かおうと思っていたんだ」

あの時は息が止まるかと思った、と彼は重ねて言った。
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