政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
彼は私にふわ、と甘やかな笑みを浮かべた。

「迷惑なわけがない。そんなふうに言ってもらえるなんて俺は幸せだ」
彼の言葉に胸に小さな灯りがともったように温かくなる。


梁川百貨店には彼の運転する車で出かけた。一般客として買い物をしよう、と私のことを思いやってくれた彼が言った。

「もちろんそのように社員には伝えてあります」
入店すると同時に傍にやってきた平井さんが、穏やかにそう言ってくれた。

「専務の長い片想いが無事に終わったようで社員一同、心から安堵しています」
「平井‼」

環さんが真っ赤な顔で叫ぶ。私も頬が熱くなって、下を向いてしまった。

平井さんは私に丁寧に弁当の件を謝罪してくれた。私は恐縮して彼に謝罪の必要はないと伝えた。今日、赤名さんはお休みらしい。

「お休みのところ大変心苦しいのですが、急ぎの書類に目を通していただきたいのです」

彼の言葉に環さんが不機嫌な表情になり、小さく溜め息を吐く。

「俺は今日休みだぞ?」
厳しい表情の環さんに動じることなく、平井さんは柔和な笑みを浮かべる。

「明日から残業続きになってもよろしいですか?」
「……わかった! 急いで済ませる。ごめん、彩乃。少し待っていてくれないか?」
申し訳なさそうな目を向ける彼に、私は笑顔で返す。

「大丈夫。色々指輪、見ておくね。私のことは気にしないでお仕事してきて」
安心させるように明るく言う。


名残を惜しむかのように私の髪を撫でる彼を、平井さんは容赦なく引きはがしていった。
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