政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「……彩乃、そんな顔をしなくていい」

フッと環さんが表情を和らげた。

私の髪をそっと耳にかける。優しい指使いにほんの少し安心する。

「聞きたくないわけでも、怒っているわけでもない。彩乃が正直に話してくれて本当に嬉しいんだ。……ごめん、嫉妬してるだけなんだ」

私の髪から手を離して、クシャリと長い指で髪をかき上げ、環さんは困ったように微笑んだ。私は瞬きを繰り返す。


嫉妬? 隆に?


「仕方ないってわかっているのに、彩乃の元彼氏っていうだけで腹が立つ。俺、独占欲が強いみたいだから。彩乃を誰よりも独り占めしたいんだ。……アイツ、彩乃のことを呼び捨てにしてたし、気に入らない」


ほんの少し赤くなった頬で彼が不満そうに言う。思ってもみなかった返答に唖然とする。彼がフイと顔を背ける。

「呼び捨てって……それは付き合っていたからで」
「わかってる。それでも嫌なんだよ。彩乃はもう俺のものなのに。それでなくても赤名まで彩乃を下の名前で呼んでいるし」

拗ねたようなその姿がなんだか可愛くて、思わず笑ってしまう。

「そんなこと言ったら、赤名さんが環さんを環くんって呼んだ時、私も嫉妬したよ?」
彼の耳元で小さくそう言うと、彼が驚いたように綺麗な目を瞠った。

「いや、あれはその、赤名は従兄妹だから」
「わかってます」
ニッコリ笑ってそう言うと、彼がはあ、と小さく溜め息を吐いた。

「彩乃にはかなわない。彼とのことを話してくれてありがとう」
私は小さくかぶりを振る。それは私が言うべきことだ。

「私の話を聞いてくれてありがとう」
私の言葉に彼が微笑んで、手を繋いでくれた。
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