政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
『飯野さんは飯野さんなりに彩乃を大切に想っていたのね。ただお互いにボタンを掛け違えちゃってそれを修復できなかったんだね』

ポツリと呟く彼女の言葉に小さく頷く。


別れてから見えてくること、わかることは多いとよく言うけれど、まさにその通りだと思う。隆はこんな身勝手な私を本当に大事にしてくれていた。幸せに、と言ってくれた彼の優しさに本当に頭が下がる。


「彩乃、大丈夫か？」
エスコートしてくれる旦那様が私の顔を心配そうに覗き込む。

「う、うん。ごめんなさい、この一週間のことを思い出してたの」

いけない、大事なパーティーの最中なのに。　

「ああ、目まぐるしかったもんな。高倉さんは？」
ぐるりと周囲を見渡しながら彼が言う。

パーティーが始まり、今は少し歓談の時間になっている。これから彼は挨拶をする予定だ。

眞子は会社の営業担当者のひとりとして出席すると言っていた。私の緊張を少しでもほぐすため、気心のしれた眞子を彼が指名してくれたのだ。優しい親友はその招待を受けてくれた。

本当に私の周囲は温かい人たちばかりだ。


もちろん私の祖母と両親も出席している。環さんがあつらえてくれたドレスがよく似合っていると何度も褒めてくれた。

環さんとうまくいっていないのでは、と心配してくれていた家族は、私が環さんとパーティーに出席すること、結婚を発表することを心から喜んでくれた。


「彩乃！」

眞子がグラスを片手に持ち、近づいてくる。今日の彼女は仕事のため、ドレッシーな黒のパンツスーツを身に着けている。

「高倉さん、本日はご出席くださりありがとうございます」
環さんが眞子に頭を下げる。

「いえ、頼っていただけて嬉しいです。幸せそうな彩乃の姿を見て安心しています。彩乃、そのドレスすごくよく似合ってるわ」
眞子の言葉が嬉しくて、環さんと私は目を合わせて微笑みあった。


環さんは私を眞子に預けて挨拶のために壇上に向かう。社長夫妻はすでに壇上の端に立っている。
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