政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「返事もできないのか?」


どこか馬鹿にするような言い方で、優雅に長い足で近づく。

百五十五センメートルの身長の私より、頭ひとつぶんはゆうに高い身長は百八十センチメートルを超えているだろう。

隆は百七十センチメートルほどだったな、と無意識に思ってしまった。隆のことを考えると、胸がツキリと痛んだ。

美形男性は無遠慮に至近距離から私の顔を覗き込む。

ふわり、と彼が纏う男性らしい香りが鼻腔をくすぐった。その香りにハッとした。

「な、なんですか……!」
「ああ、やっと返事したな」

クスリ、と相変わらず小馬鹿にしたような言い方で口角を上げる。その表情はとても妖艶で、見下されているような物言いにもかかわらず、鼓動がひとつ大きな音を立てた。


「別れ話は他所でしろ」


その言葉にカッと頬が熱くなる。

まさか、泣いている姿だけじゃなく、隆に言われた言葉もこの人に聞かれていたの?

羞恥で身体が震えそうになる。返す言葉が見つからない。

クリアファイルを握る指に力を込めて、見つめ返すだけで精一杯だ。

彼は突然リボンバレッタでひとつにまとめた私の髪に手を伸ばす。

あっと思った時には、まとめていたはずの髪が零れ落ちていた。はらはらと肩に髪がかかる。

「な、何をするんですか!」

驚いた私は思わず大声を出す。美形男性は優雅に微笑み、自身の手の中でリボンバレッタを遊ばせている。
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