政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「その髪型、君に全然似合ってない」

「なっ……!」

言われた言葉に絶句して、目を限界に近いくらいに見開いてしまう。あからさまな言い方に顔が赤く染まる。

ほんの少し頭を下げて、スッと長い指で私の髪をひと房掬い上げる。
彼はあろうことか髪にそっと口づけた。

彼のさらりと艶やかな黒髪が揺れた。流れるような動作に声を出すことができなかった。

ドキン! 心臓が壊れそうな音を立てた。


「……綺麗な髪だな」


低く囁くような声には甘ささえ漂う。先程までの剣呑な声の主とは思えないほどに。

髪にはなんの神経も感情もないのに、私の顔にはみるみるうちに熱がこもり始める。
こんなことは初めてだった。

「ああ、でももう少し短いほうが梳きやすいな」
自身の口元近くで髪を掴んだまま、凄艶な微笑みを見せる。

夜色の綺麗な瞳に真正面から見据えられて、私の身体は金縛りにでもあってしまったかのように動けない。鼓動だけが忙しないリズムを刻む。

「……前髪ももう少し切れば?」
そう言って掴んでいた髪を解放する。

額にかかる私の前髪に躊躇いなく手を伸ばす。
吐息さえ届きそうな距離まで彼が近づく。

伏し目がちの目を縁取る睫毛が信じられないくらいに長い。その下の綺麗すぎる目に魅入られそうになる。

骨ばった指が額に触れた瞬間、ハッと我に返る。
< 17 / 157 >

この作品をシェア

pagetop