政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「イギリスから新しく入荷した商品がございます。薄手の、春に向けたニットです。よろしけれがそちらをご紹介させていただきたいのですが」
叔母にゆったりとした視線を向けて言う。まるでこの状況を無視するかのように。
「まあ、そうなの? 私、薄手のニットがほしかったのよ! 是非拝見したいわ!」
不自然に繋がれたままの私の手について何も言及することもなく、叔母は嬉しそうな声を上げる。
「よろしければ八階にお越しいただけますか? ご用意させていただきます」
八階にはお得意様、いわゆる大切な顧客に対応するための個室がある。控えめに叔母に申し出ながらも、近くに控えていた女性社員にしっかりと小声で指示をしていた。
「まあ、突然よろしいの? 梁川さんもお忙しいでしょうから、余計なお仕事を増やしてしまっては申し訳ないわ」
さすがの叔母は、きちんと相手に失礼にならない程度に提案を受け入れつつ、謝罪も述べている。
このまま叔母が誘いを辞してくれることを願う。
これ以上この人の近くにいたくない。顔を会わせるのは二度目なのに、なぜか私の本能が彼は危険だと警告する。謝罪は手紙を出すか、後日改めてひとりで伺おう、そう心に決めた。
「いいえ、とんでもない。是非佐築(さつき)様にお見せしたいのです。先日ご注文いただいていた洋食器も入荷いたしておりますので、ご一緒にご確認いただければと思うのですが」
佐築、は叔母の名字だ。彼は全くひかない。焦ることもなく叔母が断れない理由をどんどん列挙していく。
叔母にゆったりとした視線を向けて言う。まるでこの状況を無視するかのように。
「まあ、そうなの? 私、薄手のニットがほしかったのよ! 是非拝見したいわ!」
不自然に繋がれたままの私の手について何も言及することもなく、叔母は嬉しそうな声を上げる。
「よろしければ八階にお越しいただけますか? ご用意させていただきます」
八階にはお得意様、いわゆる大切な顧客に対応するための個室がある。控えめに叔母に申し出ながらも、近くに控えていた女性社員にしっかりと小声で指示をしていた。
「まあ、突然よろしいの? 梁川さんもお忙しいでしょうから、余計なお仕事を増やしてしまっては申し訳ないわ」
さすがの叔母は、きちんと相手に失礼にならない程度に提案を受け入れつつ、謝罪も述べている。
このまま叔母が誘いを辞してくれることを願う。
これ以上この人の近くにいたくない。顔を会わせるのは二度目なのに、なぜか私の本能が彼は危険だと警告する。謝罪は手紙を出すか、後日改めてひとりで伺おう、そう心に決めた。
「いいえ、とんでもない。是非佐築(さつき)様にお見せしたいのです。先日ご注文いただいていた洋食器も入荷いたしておりますので、ご一緒にご確認いただければと思うのですが」
佐築、は叔母の名字だ。彼は全くひかない。焦ることもなく叔母が断れない理由をどんどん列挙していく。