政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
私を膝の上に乗せたままの態勢で問う。

私の腰には彼の大きな手がまわっている。彼は空いているほうの手で、近くに落ちていた茶封筒を取り上げた。逃げ場がない。

私はすう、と小さく息を吸う。こんなに迷惑をかけてしまっているのだから、せめて正直に言わなければと思った。


「……お、お見合い写真なんです」
「え?」


グッと眉間に皺を寄せて美麗な顔を近付ける。
「……見合い写真とか聞こえたけど気のせい?」

なぜかワントーン下がった低い声が、耳朶をくすぐる。真っ赤になった顔で小さく頷く。

見合いは何も恥ずかしいことではないし、隠さなきゃいけないことでもない。わかっているのになぜかこの人には知られたくなかった。

「見合いしたいのか? この間まで彼氏がいたのに?」
容赦なく私の傷口を抉る。

「わ、別れたので、お見合いするんです」
「彼氏と別れたくらいで見合いするのか? 新しい彼氏をつくればいいだろ」

当たり前のように言われた言葉が、チクリと胸に刺さる。

それはごく自然な意見なのだろう。でも私にはそう思えない。

散々悩んで葛藤し続けてきたことをこんなにもあっさりと指摘されて、胸が軋んだ。鼻の奥がツンとする。

きっと彼なら引く手あまたなのだろう。

以前叔母に聞いたことがある。梁川百貨店の御曹司は切れ者で優秀なのだと。眼前にいる彼はその通りの素晴らしい洞察力だ。それに加えてこの見惚れてしまうくらいの容姿。
恋に悩む必要なんてないだろう。

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