政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
けれど先程優しさが浮かんでいると思った彼の目は、冷え冷えとしている。

きっとあれは演技、もしくは見間違いだ。

だって彼は私に求婚をしているわけではない。私の持ち物、私に付随する価値が欲しいだけ。私自身を求めているわけではない。

彼に握られていた手をそっとどかせる。冷たくなっていく指はもうどうしようもない。グレンチェックのワンピースの膝の上に揃えた手をそっと重ねた。


「……お断りします」


誰かに私自身を選んでもらうことは、もう諦めなければいけないのだろう。お互いを想い合う恋愛結婚なんて、私には有り得ない。

彼がスッと大きな二重の目を細める。
ゾクリと背中に寒気を感じた。

彼の纏う雰囲気が硬質なものに変わる。周囲の温度が二、三度下がったかのようだ。

「へえ、どうして?」
彼は優雅に口角を上げて微笑む。その目は氷のように冷ややかだ。

「……あなたは私にはもったいない方なので」
嘘じゃない。この人に私は釣り合わない。その家柄も何もかも。

きっと彼は一般的にも素晴らしい見合い相手なのだろう。それでもこの人は無理だ。こんなにも堂々と私との結婚を政略だと言い切る人は嫌だ。そのくらいの選択はさせてほしい。私のなけなしのプライドだ。

「我が社ではすでに君は俺の恋人だと認識されている」
「えっ!?」

思わず大きな声が出た。あっさりと言い切る彼には、私が今、見合いを断ったことへの焦りは微塵も感じられない。

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