政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「……とても、綺麗だと思います。ありがとうございます」
うまく説明できないもどかしさをこらえながら、私は押し黙る。

「好きなものを選べよ」

よかった、機嫌は少し直ったようだ。
私には指輪の良し悪しはよくわからない。祖母ならわかるかもしれないが、私にそんな審美眼はない。

「……梁川さんが選んでくれたものでいいです」
小さな声でそう答えると、彼は面白くなさそうな顔をする。

「梁川さんじゃなくて環。婚約者なんだからきちんと名前で呼べよ」
そう言って彼はじっと夜色の瞳で私を見つめる。

ドキンドキンドキン。ふたりしかいない空間に私の鼓動がうるさく響きそうで恐い。この鼓動が意味するものはなんだろう。


「呼んで、彩乃」


心地よい低音が耳に届く。まるで私がとても大切だと言わんばかりの甘さを含んだ声。


『彩乃』


その声にドクンッと鼓動がひと際大きく跳ねた。名前を初めて呼ばれたわけじゃない。

それなのにどうして、私はこんなに動揺しているの?

私の前に屈みこんだ彼がそっと優しく私の左薬指に婚約指輪をはめる。その繊細な触れ方に自分が彼の宝物になったような錯覚を覚えそうになる。微かに触れられている薬指が震えそうになる。


「た、環さん」


カッと頬が熱くなる。恥ずかしくて薬指から視線が上げられない。彼はそっと私の左手をとって自身の口元に運んだ。

「えっ……?」

その仕草を追うように視線を上げると、私の薬指に彼が口づけた。

ふわ、と一瞬だけ触れる温かな感触。彼の唇が触れた場所が熱を持っているように熱い。

驚いて声を出せずにいる私の目を真っすぐ見つめて彼は甘く微笑む。
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