政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
その微笑みに視線を外せなくなる。胸が苦しい。きっと私は今、茹でだこのように真っ赤になっている。

どうしてそんなに優しく微笑むの?

「……早く入籍したい。困る」
彼が小さく溜め息を吐きながら、呟く。

困る、ってどうして?

何か私の知らない事態でも起こっているのだろうか。

「あの」
詳しく聞き返そうとした時、軽いノック音が響いた。

「失礼します。指輪のサイズはいかがですか?」
現れたのは赤名さんだった。今日は明るい紺色のスーツを優雅に着こなしている。彼女も彼の秘書のひとりだと彼が以前教えてくれた。

「は、はいっ!」
「あら……お邪魔してしまいましたか?」
クスリ、と赤名さんがオレンジベージュの口紅が塗られた唇で優美に微笑む。

その言葉に私は彼に手を握られたままだということに気づく。バッと彼から手を離す。その瞬間、彼がグッと眉間に皺を寄せる。

「サイズは問題ない」
素っ気なく彼が言う。なぜか不機嫌な口調に戻っている。表情も強張っている。何か悪いことをしてしまったのだろうか。

「あの、梁川さん。ありがとうございます」
「環」

愛想の欠片もない低い声で言われて、ビクッと肩が跳ねる。

「すみません」

反射的に謝ってしまう。気をつけなければ、と自分を戒める。

「専務、大切な婚約者にはもっと優しくなさらないと」
赤名さんが穏やかな声で彼を諫める。

環さんは相変わらず険しい表情をしている。この状態の環さんに声をかけることができる赤名さんを尊敬してしまう。きっと長い時間築いてきた信頼関係があるのだろう。そんなふたりの様子にチクリと胸が疼いた。
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