政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「いやあね、メリットだとかそんな面白くない話をこんなおめでたい席でしなくてもいいでしょ。彼が好きだから結婚するのよって正直に言えばいいだけじゃない」

突然台所に現れた母の声が祖母と私の緊迫した空気を破った。

「遅いから様子を見に来たの。お茶は? あら、ちゃんと準備してあるじゃない。いつまでも環さんをひとりにしておくのは失礼よ。彩乃ちゃん、環さんのこと好きじゃないの?」

母は突然さらりと核心をついてくる。さすが私に再三恋愛結婚を勧めてきただけはある。おっとりしているのに妙な勘だけは鋭い。


「……好き、だと思う」


思ったよりも弱々しい声が出た。

「なあに? ここまで来て自信がないの?」
母が小首を傾げて問う。

「……距離が近くなるとドキドキするの。でもこれが好きって気持ちなのか、まだわからないし……」
彼のことは嫌いじゃない。その自信は十分にある。

「そう、じゃあ環さんが話す言葉や態度が気になったりする? 気づいたら環さんのことを考えていたりする? 些細なことが心配になったりする?」
唐突に母が私に尋ねた。その質問を私はゆっくりと考える。

すべて当てはまる。こくんと頷いた私に母が満足そうに微笑んだ。

「好きでもない人のことは、そんな風に気にならないわよ」


じゃあ、気になってしまう私は……環さんを好きなの? 本当に? 


母の言うことがにわかには信じられない。まだ自分の中でどこか納得できないところもある。
< 61 / 157 >

この作品をシェア

pagetop