政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
彼女の言葉がすんなりと胸に沁みこむ。

確かに私には前に進む道しか残っていない。それならば彼と入籍することはきっと間違いじゃない。

彼も少なくとも今は私を必要としてくれて、望んでくれているのだから。愛情がなかったとしても、お互いのメリットと条件があるなら、彼は私を見捨てないだろうし、裏切ることもない。

考えようによってはそれはとてもわかりやすい信頼だ。恋ではなくてもこれから先、彼と歩んでいく中で良好な関係を築けるかもしれない。

そう思い至った時、私の心の霧がすっと晴れた気がした。


「ありがとう、眞子。決めた。私、入籍する」


そう言い切った私の心にもう迷いはなかった。
 

決断した後の私の行動は素早かった。
仕事を終え自宅に戻り、着替えることもなく婚姻届に記入した。

それから入籍の決心をしたので婚姻届に記入した、と彼に勢いでメッセージを送った。記入する際に書き間違えないようにと緊張はしたけれど、この人と結婚するという実感はまだない。

書き終えた後、何だか気が抜けて、しばらくベッドの上に腰かけていた。その時、バッグの中のスマートフォンが着信を告げた。

取り出したスマートフォンの液晶画面に表示された名前は『梁川 環』だった。予想外の電話に驚きつつも応答する。

どうして婚姻届の報告をしただけなのに電話がかかってくるの?


『今から出しに行く』


挨拶はもちろん、何を、どこに、とかそういったものを一切省いて、彼が性急に告げる。

「あの、えっと何を?」
狼狽する私に彼が返事をする。


『婚姻届を出しに行く』


彼が同じセリフをもう一度ゆっくりと繰り返す。その返答に私は呆然とする。
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