政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
『その代わり、明日から彩乃は俺の家に引っ越してくること』


どうしていきなりそんな話になるの?


『交換条件だ、どうする彩乃?』


少しでもこの人を信用した私が馬鹿だった。

会社に広められるのは困る。彼は我が社の大事な取引先の御曹司だ。
知られてしまったらとんでもない騒ぎになってしまうし、会社にいられなくなってしまうかもしれない。そんなことになったら将来彼と別れた時に無職になってしまう。

『か、勝手すぎます!』

私の言葉に彼はクックッとひどく嬉しそうに笑った。

反論しても無駄なことはわかっている。この人は勝ち目のない勝負はしない。

予想通り私はその条件を呑むことになり、会社への報告については猶予をもらった。

『終業後に迎えに行く。両家には俺から入籍の報告はしておくから。新居に持っていきたい荷物は纏めておいてくれ。スペアキーを管理会社から借りてあるから明日の日中に、平井に取りに行かせる。運びたい家具はあるか?』

すこぶる上機嫌な彼が輝く笑顔で問う。管理会社にまで話を通しているのかと驚く。

そもそも新居はどういう部屋割りになっているのだろう。私の部屋、といったものは与えられるのだろうか。

『君が必要としそうな家具家電は用意してある』

私が口を開く前に、家具は持ってくるな、と暗に言われた気がした。
そんな風に邪推してはいけないのかもしれない。

けれど彼が用意してくれた家具家電はきっと私が持っているものより上質だろう。私は小さくかぶりを振った。

今日は本当に疲れた。もう何も考えずに眠りたい。
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