政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「いえ、あの、あまりに部屋が広くて驚いて……自室をいただけるとは思っていなかったので」
正直に伝えると、彼が口の端を少し持ち上げて笑った。

「当たり前だろ」
端的に彼が言う。

彼の返事に私はどう反応してよいかわからずに俯く。胸中をありのまま伝えることはできなかった。

想いあって結婚した夫婦が自身の部屋を持つものかどうか、私にはよくわからない。

私の両親は夫婦の寝室を兼ねた部屋は持っているけれど、それぞれの自室は持っていない。

もちろん部屋の間取りや広さもあるだろうけれど、私はそういうものだと思ってきた。祖母の本邸も幼い頃に行き来していた眞子の自宅もそうだったから。

でも彼にとって夫婦が独立した部屋を持つことを当たり前のようだ。その言葉にわずかな孤独を感じてしまった。

部屋をくれることはとても有難くて贅沢なことなのに、どうしてそんなにも引っかかりを感じるのだろう。素直に喜べないのだろう。

「彩乃?」
黙り込んだ私を怪訝に思ったのか、彼が至近距離から私の顔を覗き込む。

「あっ、はい。すみません」
「……どうかしたのか?」
彼が美麗な顔を少し顰める。そんな表情すら絵になる。

こんなに格好良くて裕福で由緒正しい家柄の人が私の夫。不釣り合いすぎて泣きたくなる。

「いえ、自室をいただけるなんて有難いなと……」
嘘ではない。分不相応の暮らしをさせてもらうのだから。

「……彩乃の部屋はあのドアを出た廊下の突き当りだ。手前は俺の部屋。荷物は部屋に入れてある」
彼はなぜか不愉快そうにそう言って、先程通ってきたドアとは真逆に位置するドアを骨ばった指で指し示す。

< 78 / 157 >

この作品をシェア

pagetop