政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
五月に入り、気温は初夏を飛び越えて、まるで真夏のように暑い日が続いていた。

マンションのエントランスに植えられた植栽は、日に日に青々とした葉を茂らせて、輝く太陽を仰いでいる。

夜になっても気温はあまり下がらず、コートを着ずに軽装で外出することができるようになってきた。


【今日は帰れないかもしれない】

金曜日の夕方、彼からのメッセージを自宅で受け取った。今日は休日出勤をした代休日だった。

環さんを見送って自宅の掃除をし、洗濯をしたり家事をこなしていた。自宅が広いため、掃除ひとつとっても時間がかかる。彼は私に家事を強要しない。

意外なことに御曹司でありながら、彼は身の周りのことをひとりでこなせる人だった。
そのため、お手伝いさんといったハウスキーパーさんを常勤で雇うことも今までなかったそうだ。


ここに引っ越してすぐの頃、彼とハウスキーパーさんの件で会話したことをふと思い出す。

『毎日多忙な中で家事をされていたのですか?』

どこにそんな時間があるのだろうか。

『家事は嫌いじゃないからな。どうしようもない時は赤名が色々手配してくれていた。でも今後はハウスキーパーを雇うなり、好きにすればいい』

再びちらつく赤名さんの影に胸がズキリと痛み、顔が強張ってしまった。

『赤名さんが掃除をされていたんですか……?』

無機質な声で問い返す私に、彼は怪訝そうに片眉を上げる。彼はなぜか嬉しそうだった。

『気になるのか?』

口角を上げて言うその姿には色香が漂う。彼の問いかけに私はグッと押し黙る。聞かれた答えが見つからない。

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