政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
『赤名はハウスキーパーの手配をしてくれていただけだ。自宅によく知らない人間を入れることは好きじゃない』

私の心中を察したかのようにピシャリと言い切る彼。

『私のことももよく知らない人間、だなんて考えてるんじゃないだろうな?』

私の顔を至近距離で覗き込みながら、彼が揶揄うように言う。その指摘が的確すぎて表情を取り繕うことができない。

『え、あの』
目を泳がせてしまう私に、彼は小さく溜め息を吐く。

『……何回言えばわかる? 彩乃は俺の妻で、他人じゃない。俺が彩乃を選んだ』

その時の彼の切なそうに細められた目が、忘れられない。


……あれはどういう意味だったのか。

あの時の私はそれ以上を追求することができなった。下手に期待をして落ち込むことが恐かった。そもそも私は何を期待したのだろう。

昨日も遅かったのにな。夕ご飯、無駄になっちゃうかな。

今日は一日時間があったこともあり、常備菜等の食事のストックを作っていた。ある程度下ごしらえをしたものを用意しておくと、普段の夕食準備は格段に楽になる。

その時、以前赤名さんに言われたことを思い出した。


「……お弁当、差し入れしようかな」


彼は食事に無頓着だから差し入れは喜ぶと彼女は言ってくれた。

差し入れを決めるとなぜかワクワクして心が躍った。会社を訪問することは緊張するけれど、高揚感が勝る。

髪をいつもより念入りにブローする。何着も服を取り出しては迷い、ドキドキしながら身支度を整える。頬が熱くなっていく。


環さん、喜んでくれるかな。食べてくれるかな。
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