政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
そう思って紙袋を腕にかけてバッグからスマートフォンを取り出す。

その時、背後から男性の声がした。


「奥様?」


振り返ると平井さんが立っていた。


「ひ、平井さん、お疲れ様です!」


神の助け、と言わんばかりに彼の名を呼んだ私を訝しみながら、平井さんは私がここにいる事情を尋ねた。

聞き終えた後、彼は優しく私に微笑み、環さんのいる場所まで案内をかって出てくれた。平井さんから環さんに弁当を渡してもらうようお願いすると、専務を驚かせましょう、とやんわり拒否された。

「お忙しいところすみません」
私がそう言うと、平井さんは小さく首を横に振る。

「いえ、きっと専務もお喜びになると思います。急に帰れなくなって不機嫌になっておられましたから。ただ、奥様おひとりでの夜間の外出はお控えいただきたいのですが」
「す、すみません……」

厳しい口調の平井さんに謝罪する。
夜間とはいってもまだ七時にもなっていない。

そんな私を見て、紙袋を私の代わりに持ってくれた平井さんはふっと口調を和らげる。

「奥様に万が一のことがあれば専務が悲しまれます。専務は普段から奥様のことを非常に案じられていますから」
彼の言葉に目を瞠る。


もしかして……勤務時の送迎も……?


パチパチと瞬きを繰り返す私に、平井さんは悪戯っぽく笑った。


「誰かに奥様を傷つけられないように、奪われないように専務なりに必死なんですよ」


彼の言葉にそんなことはないと思いながらも、胸の中心がじわりと熱くなる。

平井さんは私を最上階にある役員フロアまで連れて行ってくれた。
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