一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
うっすらと湯気が漂う先に花びらが浮かぶ薬湯が見えるが、そこには先客がいた。
藍色の長い髪を湯に揺蕩わせ、肩まで浸かるその横顔は美しい顔立ちをしている。
皇帝の子に皇女はいないはずなので、血縁者の誰かか、もしくはルシアン皇子の婚約者か。
誰にせよ、粗相のないようにとメアリは「失礼します」とひと声かけてから湯に入る。
声に反応し、伏せていた長い睫毛が持ち上がると、瞳が驚いたように見張られた。
「あ、お寛ぎのところごめんなさい。私、今日はこちらに泊めていただくことになりましたメアリと申します。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀するも、なぜか目の前の相手は瞬きを忘れたかのようにメアリを凝視している。
そんなに汚れているだろうかと顔に触れたのもつかの間。
にっこりと微笑まれて、メアリは相手が友好的な反応をくれたことに安堵し笑顔を返す。
「素敵なお風呂ですね」
床の上で揺らめくキャンドルの灯りと花の香りを楽しみながら話しかけると、笑みを深めて頷く相手。
一向に返事をしないのはもしかしたら喉を痛めているのかもしれないと予想し、それなら負担をかけてはならないとメアリは疲れを癒すように息を深く吐き出した。