甘く抱いて、そしてキスして…【完】
トントン

「はい、どうぞ」
微かな穂乃香さんの声を確認し、私は扉を開けた。

「こんにちは。穂乃香さん、気分はどうですか?」
私は、もの静かに落ち着いて言った。


「あ、美園ちゃん、来てくれたんだ。色々心配かけてごめんね」
やはり、まだ痩せている。セクシーな雰囲気も消えたまま。

「あと、翔ちゃん、ずっと支えてくれて……美園ちゃん、辛かったよね?ごめんね…」

「ううん、大丈夫ですから。気にしないで下さい。あっ、これ、良かったら、食べて下さいね。日持ちするように焼菓子にしましたから」

「ありがとう。本当にありがとう」

「穂乃香さん、笑って。私は穂乃香さんの笑顔が大好きなんです」

「あはは、そう?」
穂乃香さんは、照れくさそうに、明るく純粋な笑顔を見せた。


トントン

ガラガラ

「検温です」
看護師さんがテキパキと入って来た。

「あ、お客様?はい」
即座に、体温計を差し出す看護師さん。

「ありがとう、里奈」


ん?
知り合い?

「美園ちゃん、私の妹なの」

へ?

「里奈、こちら田辺美園さん。すごく迷惑かけちゃったの…」

「姉が、迷惑かけてすみません。私は真田里奈(さなだりな)です」

「迷惑だなんて、全然……って、真田?」

瞬く間に凍りついた私。

「あ、あの、もしかして、町田区に住んでます?」

「あれ、美園ちゃん、なんで?妹の事知ってた?」

不思議そうに、顔を見つめてくる穂乃香さん。

「ちょっと……うーんと…」
私は頭の中を必死でロボットのように整理整頓し始めた。

うーんと、穂乃香さんの妹が、里奈さん。
真田先生の奥様は、看護師。
町田区在住。


ん?
婿養子?

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