ビーサイド
「なんか、朱音さんのオムライスって特別においしく感じる」
「へ?」
「1番好きかも」
それはオムライスが、だ。
わかっているのに妙にいい声で言うものだから、無駄にドキドキしてしまう。
彼女になった今でも、私は涼くんにまったく弄ばれている。
「ねえ顔赤いって」
そう言ってケタケタ笑われるのは若干不愉快だが、それにすら胸が高鳴っていることもまた事実で。
「部屋、暑いから!」
初めて居酒屋でこう言い訳したあの日には、まさか自分たちがこうなっているだなんて、想像もしなかった。
人生ってどこまでも想像通りにはいかない。
そう思うと、今まで散々ああだこうだとこねくり回して考えていた結婚とか、将来のこととか、そういうことが大したことではないように思えてきた。
その証拠に、うちの母は涼くんに首っ丈で、父は自分のミュージックプレイヤーにBesaidの曲を入れたらしい。
うちの両親は楽天家というか、直感的に行動するタイプで、私が両親が20歳のときに誕生していることも、きっとそういうことなんだろうと思う。
その昔私が母に聞いたときには、できちゃったんだもの、運命感じたわ〜なんてあっけらかんとしていた。
そういう両親だからこそ、私が選んだ道に何を言うこともなかった。
てっきり家に帰ったら嫌味の1つでも言われるかと思っていたが、予想に反して母は、涼くんのイケメンっぷりに、よくやったと言い放った。
その一言で、ふっと肩の力が抜けたんだ。
洋介と同棲するとなったときには、早く孫の顔が見たいだとか散々言われていたが、私はそれを気負いすぎていたのかもしれない。
「当分は独身だと思うけどね」
私の念押しにも父は、
「じゃあまだダイエットの時間あるな」
なんて肥えたお腹をさすって言った。