癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
遙季を好きだという努の表情からは、光琉から感じる切なさや愛しいといった感情が見受けられない。

「でも、まあ、あの事件のあと、八代と君は本当に別れたみたいだったし大学も離れ離れになったでしょ?だから、わざわざ蒸し返すこともないと思って、若菜にもその件は不問にしたんだ。」

黒ビールを一気に煽った努は、

「なのに,,,この期に及んで、八代は君のもとに帰ってきた。あいつは、何度でも僕の邪魔をする,,,!」

と独り言のように呟いた。

「邪魔って,,,八代先生があなたに何をしたんですか?」

「高校生の時は若菜を弄んで、今度はようやく君にプロポーズした僕の邪魔をした」

「プロポーズ?お付き合いはお断りしましたよね」

「ああ、でも、僕は君が八代を忘れるのを待ってたんだよ。あいつさえ強引に君に迫らなければ、僕のものになるはずだった」

これが努に実在している妄想でなければ、これはパーソナリティ障害に分類されるだろう。

偏った人間関係や思い込みの激しい性格、視野の狭さからくる決めつけや勘違い。

「たとえ、八代先生のことがなくても、私は誰ともお付き合いするつもりはありませんでした。あのとき加藤さんも納得してくれたではありませんか」

遙季は慎重に言葉を選んで言った。

「あいつさえ現れなければ、そのうち優しい君は俺に流されてたはずた。若菜だってそうだ。少し甘い言葉で囁いたら俺のところにきたんだから」

遙季は、努の言葉の意味を拾おうと考えを巡らせた。

「加藤さん、まさか,,,若菜さんのこと,,,?」

「ふふ、大丈夫だよ。雪村さん。若菜のことは慰めてあげたけど、一番はずっと君なんだから」

遙季の頭の中に、最悪のシナリオが浮かんだ。

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