【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「尾関様の連絡先をお伺いするのを忘れておりました」
「え、あ! そうですね」
ワンピースを預けて帰るのだ。当然それを受け取らなくてはならない。
「えーっと、よかった。あった」
いつもは使わない小さなパーティバッグ。その中から財布を取り出すと名刺を渡した。仕事中名刺切れになったときのために、数枚財布の中に入れておいたのが役に立った。わたしが差し出した名刺を、神永さんは丁寧に受け取った。
「あさひ証券にお勤めなのですね」
「はい。営業をしております。日中はこちらに連絡をいただければ取りにまいりますので」
「そんな、わたくしどもがお持ちします」
神永さんは当然のように言ったけれど、わたしはそれを断った。
「もう十分していただけましたし、わたしもこのワンピースをお返ししないといけませんから」
「そんな、それでは――」
「もし承諾していただけないなら、今からその濡れたワンピースに着替えて帰ります」
きっぱりと言い切った。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
神永さんは一瞬驚いた顔をしてまじまじとわたしの顔を見たあと、口元を緩めて私から顔を背けた。口元をおさえているけれど、肩が揺れている。どう見ても笑っているのはわかった。
な、なに? そんなにおかしいこと言った?
目の前で笑う神永さんを見て、とまどってしまう。
「あの、いや失礼しました」
ゴホンとひとつ咳をして笑い終えた神永さんが、わたしの方に向き直る。
「それではここは私が折れて、尾関さまの言う通りにいたします」
さっきの笑いとは違い、営業スマイルの神永さんが部屋のドアを開けてくれた。