【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「まぁ、そう言わず。――商談を始めましょうか?」

 彼の目が一瞬キラリと光ったのをわたしは見逃さなかった。いったい何の商談をしようというの?

 目で座るように促さされたわたしは、なぜだか逆らえずに彼の言うことを聞いてしまった。

 わたしがすっかり腰を下ろすと満足したようにうなずいた神永さんはわたしを逃がさないように、わたしの隣に座った。

 すぐに坂上さんがお茶とケーキをもって部屋に戻ってきた。

 あいかわらずハーブティーからはいい香りがしていて、いつもなら心が和むに違いない。

 しかし、真横でニコニコと微笑む神永さんの意図がわからない今、ハーブティーぐらいではわたしの気持ちを落ち着かせることはできなかった。

「さぁ、とりあえずこれでも飲んで落ち着いて」

「いや、あの――」

「どうぞ」

 物腰は柔らかいのに、有無も言わさぬ態度。わたしは逆らうことなくティーカップを手にして一口飲んだ。美味しい……美味しいのだけれど、それをじっくり味わうことが今のわたしにはできない。

わたしがハーブティーを飲んでいる間も、神永さんはわたしの顔をじっと見つめていた。居心地悪いったらありゃしない。カップに口をつけたまま彼の方をチラリと見た。

「尾関さん……先日来お話をしていただいている資産運用の話なのですが、お願いしようかと思っております」

「ほ、本当ですかっ!?」

 びっくりしてティーカップを音を立ててソーサーに戻すと、思わず前のめりになり腰を浮かしてしまった。

 恥ずかしくなりコホンと小さな咳をして腰を下ろす。
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