【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
坂上さんが右耳につけていたインカムを押さえて耳を傾けている。渋い顔をした後、坂上さんがドレスを社長に押し付けた。

「急ぎの別件ができました。社長はちゃんと尾関さんとお話してください。――失礼します」

 最後はこちらを向いて、一瞬不憫そうな顔をして部屋を出て行った。

 な、なに? 今の哀れみたっぷりな視線は?

「なんだ。今日はトラブル続きだな? そう思わない?」

「え、いや、そうなんですか?」

 同意を求められたところで、実際何が起こっているのか一ミリもわかっていないわたしには答えようもない。

「そうそう、模擬挙式のモデルさんが、食中毒でね。それもふたりとも。どうやら別の仕事で出された食事にあたったらしいんだ。でもこっちは尾関さんのおかげで解決しました」

 いや、してない。

「あの、わたし了承した覚えはないんですけど」

 なんだか決定事項のようになってしまっているが、モデルだなんてわたしができるわけはない。

「できることなら、何でもするっておっしゃってくださいましたよね?」

「た、たしかに、言いました。でも〝できることなら〟って、わたしにモデルは無理です」

 はっきりと言わないと伝わらない。こればっかりは無理な相談というものだ。

「どうして? あなたならかわいいわたしの花嫁さんになれると思いますよ?」

 そう言いながら彼が浮かべた綺麗な笑顔に、思わずうなずきそうになる。

 ダメ、ダメ! 自分を強く持って。

 いくら困っている人だからって、安易にうなずくなんてリスクが高い。ここは何としても、断らないと。

 頭の中で断る理由を探す。
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