【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「そこ、違うよ」

 声のしたほうを見ると、入口のドアにもたれかかった神永さんが、面白そうにわたしを見ていた。

 わたしも思わず彼を見つめ返してしまう。だって……ブラックのテイルコートを身に着けた彼は、息をのむほど素敵だったから。

 中にはチャコールグレーのベストとそれに合わせたネクタイで全体的に落ち着いた感じだ。

 よくあるデザインだからこそ、背が高くすらっとしているモデル顔負けのスタイルをしている神永さんが身に着けることで、より素敵に見えた。

「夜だからテイルコートにして、新婦に合わせてクラシカルな感じにしたんだけど、どう?」

 神永さんはくるっと一回転してみせた。その動きがすごくおちゃめで、わたしはプッと吹き出してしまう。

「あはは。もう、なんなんですか、その動き?」

 我慢できなかったわたしは、声をあげて笑ってしまう。そんなわたしに近づいてきた神永さんは、わたしの前に立つとわたしの姿を頭からつま先まで確認した。

 仕事なのだから、わたしの完成度を確認するのはあたりまえ。けれど、彼に見られていると思うと、自然と頬に熱が集まり赤くなってしまう。

「ああ。とっても素晴らしいですよ。どこからどうみても可憐な花嫁さんに見えます」

「もう、お世辞はやめてください」

 ただでさえ熱い頬が、余計に熱くなる。

「お世辞だなんて心外だな。とってもよく似合っています。かわいらしいですよ」

 じっと見つめられたまま、褒められて恥ずかしい。

 けれどこれ以上彼の言葉を否定するのも申し訳ない気持ちがして、わたしは本当に小さな声で「ありがとうございます」と答えるのがやっとだった。

 わたしの態度に満足したのか、優しい笑みを浮かべた神永さんがわたしの耳に触れた。
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