【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
アンティーク調の大きな扉の前でわたしはごくりと唾を飲み込んだ。扉の向こうからはざわざわとした人の気配を感じる。
あぁ、とうとうここまで来てしまった。
往生際の悪いわたしはやっぱり断るんだったと、この期に及んで後悔している。
「そろそろお時間です」
スタッフから声がかかり、緊張がマックスになる。
「ちょっと待ってください」
わたしはグローブをつけた手のひらに〝人〟という字を書いて、ぱくっと食べた。それを三回繰り返したけれど、やっぱり緊張は取れない。
もう一回だけ!
そう思ってもう一度手のひらに書こうとしたとき、神永さんにやんわりとそれを止められた。
「そのおまじないもいいですけど、あまり効いていないみたいですね」
「えぇ、でもしないよりはマシかと……」
「それよりも」
神永さんが手のひらを上にして差し出す。どうやらわたしの手をそこにかさねるようにということらしい。
言われるままに彼の手のひらに自分の手を重ねる。すると彼の手がわたしの手をぎゅっと握った。
「尾関さん、わたしの目を見てください。たしかに今日はたくさんの人がおみえになれています。でも私が一緒です。
だからもっと気持ちを大きく持って。失敗はすべて私の責任ですから。ね?」
彼の手にぎゅっと力が入る。グローブ越しに伝わってくる温かさが、ガチガチに凝り固まっていたわたしの緊張を少しやわらげた。