【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「いい顔です。そのくらいの緊張がベストですから。さぁ、行きましょう」
「はい」
彼はそれまで握っていたわたしの手を、ゆっくりと自分の腕に絡めさせた。わたしがギュッと彼の腕を握ると、反対の手で絡めた手をポンポンと叩いてくれ、にっこりと笑った。
アベマリアが流れる。扉の向こうもシンと静かになった。
わたしが大きく深呼吸をしたあと、目の前の扉がゆっくりと開く。
中から漏れるやわらかい光がわたしと神永さんを照らすと、ふたりで呼吸をあわせて会場にいらっしゃっているお客様に頭をさげた。
天井まで届く大きなステンドグラス。息をのむほど神聖な雰囲気のその場所でわたしは、神永さんと神父さんの前に立っていた。
白いひげにでっぷりとした体格。えんじ色の法衣を身に着けた神父さんはサンタクロースを彷彿させる。
やだ、緊張しすぎて変なこと考えちゃった。
ここまではなんとか失敗せずにやれた。後半分だ。
神父さんがわたしと神永さんを交互に見て、それから彼にたどたどしい日本語で誓いの言葉を投げかけた。
「新郎、あなたは健やかなるときも病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、死がふたりを分かつまで、愛し合うことを誓いますか?」
神父さんの言葉のあと、神永さんはわたしの方を見てうなずき「誓います」とはっきりとした声で宣誓した。
これは模擬挙式だとわかっている。だけど、なんだかその男らしい姿に、胸がキュンとした。