【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「まぁ、いいでしょう。しかし多少のお仕置きはさせてもらいましょうか?」

「お、お仕置き?」

「シッ、歌が終わります」

 彼が言った通り、すぐに歌が終わり会場は静かになった。

 はぁ、なんとか追及されずにすんだけれど、お仕置きってなんだろう。まさかここまできたのに、契約の話なかったことにされるなんてこと……ないよね?

 焦ったわたしは隣に立つ神永さんを見る。

 しかし彼はじっと神父さんのほうを見ていて、思惑はわからない。

 ひとり焦っていたけれど、そんなことはお構いなしに式は進んでいく。

 だめだ、もう失敗をするわけにはいかない。

 鬼の形相の課長の顔が思い浮かんで、わたしは式に集中する。

 次は……っと。

「では、誓いのキスを」

 そうだ。ここはえーっとたしか、神永さんにベールを上げてもらうんだった。

 わたしは彼の方を向き、少し身を屈める。するとゆっくりとベールが持ち上げられて、背中の方へと綺麗に整えてくれた。

 その後一歩彼が近づいてくる。

 実は……ここが一番緊張する場面だ。模擬挙式だからもちろんキスはしない。けれどフリはしなくてはならない。恋愛経験の乏しいわたしには、このフリでもかなり高いハードルだ。

 神永さんがわたしの肩に手を置いた。そしてじっとわたしの目を見つめる。

 ドキドキして心臓が口から飛び出しそうだ。
< 53 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop