【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
彼の車で連れてきてもらったのは、モダンなつくりの一軒家だった。看板がなかったので、知らない人はここがお店だということには気が付かないだろう。
中に入るとすぐに黒いエプロンをかけた男性が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。
「神永様、お待ちしておりました」
「悪いね。急に」
「いえ」
笑顔の男性は、わたしのほうにも「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
勢いでついて来たけれど、どうやら高級店みたいだ。急に緊張してきた。
男性に案内された席に着く。夜の時間とあって店内は少し照明を絞っていて、テーブルの上には小さなキャンドルが置かれていた。
「あの……まさか、こんな高そうなお店にくるなんて思っていなくて。こんな服装ですみません」
一応ジャケットは羽織っているがノーカラーのもので、インナーは薄手のニットだ。グレージュのひざ丈のフレアスカートと黒いパンプス。
仕事着としては合格だろうが、こういったお店に来るにはカジュアルすぎる。
「そんなこと気にしないでいい。私だって仕事帰りのスーツだしね。嫌いなものはある?」
「いいえ。では適当に頼むね」
正直メニューを渡されても、値段が気になってしまい何も決められそうになかった。
今日の財布の中身を思い出そうとしていると、神永さんがふっと小さく笑う。
不思議に思って首をかしげる。
「いえ、いつもすぐに考え込むなぁって。一度あなたの頭の中をのぞいてみたいと思って」
「え、あの……その、それはご遠慮いただきたいです」
あんなことやこんなこと、覗かれたら恥ずかしくて生きていけない。
「ぷっ、あはは。本当にあなたは、あはは」
そんなに面白いだろうか。神永さんの笑いのツボがわからない。
恥かしくなってグラスに注がれた水を飲む。視線を上げるとひとしきり笑い終えた神永さんと目があった。