【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「では乾杯」
ペリエを掲げた神永さんに合わせて、グラスを軽く持ち上げてからひと口飲んだ。
オレンジの甘みとさわやかさ、炭酸のすっきりした味わいが喉を抜ける。
「すみません、わたしだけ」
「せっかくの料理なんだから、楽しんで。俺はそこまでお酒が好きなわけじゃないし。それにつきあいも多いから、ある程度自制しないとね」
今、自分のこと〝俺〟って言った。これまではずっと〝私〟だったのに。
目の前でペリエを飲む神永さん。その姿さえも美しい。
紺色のストライプのスリーピースはいつもどおりオーダーメイドのものだろう。なんといってもグラスを持つ手! スーツから覗く大きめの腕時計を付けている手首、品の良い彼だけれど手は大きくて骨ばった指に男の人の色香を感じてしまう。
やだ……わたしってば。
神永さんが悪い。無駄にセクシーなんだもの。
いつもは明るい部屋や昼間に会うことが多かった。だからこうやって灯りの絞られたキャンドルの中での彼の魅力は三割増しだ。
他愛のない話をしながら、彼の観察をしていると前菜であるアンティパストが運ばれてきた。
お皿には数種類の色とりどりの料理が並んでいた。タコのマリネやカポナータ、アボカドを生ハムで巻いたものなど、色とりどりで目にも楽しめるものだ。
「堅苦しく食べるのは好きじゃないんだ。尾関さんも気にせずに食べればいいからね」
そう言うと、迷いなく置かれていた箸に手を伸ばす。
え……意外かも。
「こっちのほうが、食べやすい」
思っていたことが完全に顔に出ていたのかもしれない。