仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
車が出ていくエンジンの音がしてしばらくしてから、美琴は自分の部屋を出てリビングに移動した。

どさりとソファーに座り、背もたれに身体を預ける。

「どうして、あんなことを言ったの？」

自然と零れた独り言は、静まり帰った家に響く。

今まで散々蔑ろにし、拒否し続けたくせに、ここに来て急に気にしているような態度を取るなんて……。

(一希は私が作った食事を何度も要らないと言ったのに)

いつだって彼の体調を気遣い、心を込めて作っていた。けれどその度に冷たい眼差しを向けられ踏みにじられた。

そんな彼に今更のように気遣いを見せて欲しくない。もう彼の言葉を素直に受け取れなくなっているのだから。

けれど……思い出してしまった。

実母を亡くして塞いでいたとき、一希が側で励ましてくれた思い出を。

食事を取れなくなった美琴を気遣い、おかゆを作ってくれたのは、実の父でも祖父でもなく一希だった。

一希がしっかり食べないと駄目だと言ったから、それ以来彼からの教えを守って、食事を大切にして来たのだ。


久しぶりに思い出した記憶は、美琴に深い悲しみをもたらした。

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