仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「そんなに彼女が愛人扱いされるのが嫌なの?」

うんざりした気持ちになりながら投げやりに言うと、一希は不快そうに眉をひそめた。

「どういう意味だ?」

「執拗に犯人捜しをするのは、観原千夜子の名誉を守りたいからでしょう?」

「……皆の名誉を守るためだ」

「そう……どうせ認めないと思ってたけど。どちらにしても私を巻き込むのは止めて。一希に言いつけたって思われて逆恨みされたら嫌だもの。それに私にとっては今となってはどうでもいい話だから」

美琴の言い終わるのと同時に、玄関のベルが鳴った。

一希が玄関の方に顔を向ける。

「迎えじゃないの? もう時間過ぎてるでしょう?」

時間になっても一希が出て来ないので、運転手が呼びに来たのだろう。

一希は腕時計に視線を落とし、諦めたように言う。

「続きは戻ってからだ」

美琴は「はい」とは答えずに、冷めた目で一希の後ろ姿を見送る。

玄関に向かいかけた一希が思い出したように振り返った。

「まだ何かあるの?」

「……ちゃんと食事を取っているのか?」

予想もしていなかった言葉だった。

不意を突かれて、咄嗟に返事が出来なくなる。

(どうして急に、そんなことを聞いてくるの?)

何もかもを見透かすように見つめてくる一希に、美琴は掠れた声で答える。

「一希よりはまともだと思うわ」

素っ気ない返事だからか、一希は不満さを顔に出す。

彼は「そうか」と呟くと身を翻し、玄関を出て行った。


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