仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「一希は観原千夜子との愛人関係を私に教えた人を知りたがっているけど、それは彼女の悪い噂をこれ以上広めない為よね? そんなに彼女が好きなのに、どうして私と結婚したの? 最近知ったけど、神楽家は久我山家と政略結婚する必要がないんでしょう?」
冷静な態度で告げたつもりだったが、一希は苛立ちを隠さず美琴を睨んだ。
「いい加減にしてくれ。千夜子とはそんな関係じゃないと何度言えば分かる」
そっちこそ、いつまでも誤魔化すの? そう詰め寄りたい気持ちを抑え、美琴は淡々と返事をする。
「一希の言い分は分かったわ。じゃあ、結婚については? どうして私との結婚を承知したの? 一希の立場なら嫌なら断れたんじゃないの?」
「……断れなかったから、結婚したんだ」
美琴は怪訝な思いで首を傾げる。
「どうして? 前から思っていたけど、お祖父様に対して何か弱みがあるの?」
話の流れで今まで感じていた疑問を口にしただけだった。それなのに一希は驚くくらい冷酷な目で美琴を睨んだ。
「知りたければ、お前の祖父に聞けばいいだろう」
「……どうして、そんなに怒るの?」
「…………」
肝心なところで応えない一希に、うんざりする。
「そこまで私が嫌いなら、初めから結婚しなければ良かったのに」
そう口にすると、一希の纏う空気が更に冷たいものになった。
「お前が俺との結婚を望んだからだろう」
「え?……わ、私が一希と結婚したいと言い出したと思ってるの?」
目を瞠る美琴に、一希は歪んだ嘲笑を浮かべる。
「そうだろう? 久我山氏はそれで話を持ち掛けて来たんだからな。今更知らないふりをするな」