仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「ち、違う! 勘違いしないで! 私はお祖父さんの命令で結婚したんだから」

慌てて高い声を上げる美琴に、一希は依然として嘲笑のままだ。

「命令で? 言いなりになって結婚したって言うのか? これだけ噛みついてくるお前が? 信じられないな」

「それは……事情があって結婚するって決めたのよ。でもその時、相手が誰かは知らなかったわ!」

屈辱で叫びたい気持ちになった。

(一希はずっと私が望んで結婚したと思ってたんだ……)

政略結婚で、お互い義務感から結婚したと信じていたのは美琴だけだった。

その上で、一希は美琴を蔑ろにし、千夜子を側に置いている。

(余計に酷いじゃない)

「……私が一希を好きで結婚したくて、お祖父さんを動かしたとでも思っていたの? でも違うから。私はお見合い相手が一希じゃなくても結婚するつもりだった。誰だってよかったのよ!」

吐き出すと、一希が笑みを引っ込め顔をしかめた。

「だとしたら、なぜ久我山氏はお前との結婚を俺に強いた?」

「そんなの……知らないけど……神楽家と縁を結びたかったんじゃないの?」

美琴としてはそれよりも、一希の認識がショックだった。

(無理やり妻の座に収まった女だと思われてたんだ)

もしかしたら千夜子ともその様な話をしていて、だからこそ彼女はいつも美琴を見下していたのではないか?
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