仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～

「え？……結婚は、久我山家の跡取りが欲しいからって……」

美琴は混乱しながら、記憶を探るように視線を彷徨わせる。

(……間違いないわ。お祖父さんは、そう言っていたはず)

実家への援助と引き換えに、結婚して後継者を産めと言われたのだ。

祖父は苦笑いのような表情になる。

「そうでも言わないと結婚を承知しなかっただろう？　私はとにかくあの家から美琴を切り離したかった。一希君と結婚して新しい家庭を大切に想うようになれば、冷静に自分の立場を鑑みることが出来ると思った」

「そんな……私は苦労しているなんて思っていませんでした。お金は無かったけど、みんなで仲良く暮らしていて幸せだったのに」

非難するような目を祖父に向ける。すると祖父は困ったように首を振った。

「長年かけて培った価値観はなかなか変えられないようだな。いや、美琴の場合は洗脳されたと言ったほうがいい」

「洗脳？　何を言ってるんですか？」

物騒な言葉に怖くなる。普通の家庭でそんなことが起きるはずもないのに。