仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「周りからはそう見えるという意味だ。よく考えてみるんだ。私が無理にでも結婚を決めていなかったら今頃どうやって暮らしていたと思う?」

「それは……みんなで働いて……」

「みんな? 弟妹は幼く働けない、義母は何かと理由をつけて必死に働きはしないだろう。断言するが美琴がひとりで身を粉にして働いていたはずだ」

祖父は厳しい声音で言う。

そしてその言葉は美琴も頷けるところがある為、強く言い返せなくなった。

昨日の恵美子との会話で覚えた違和感、不信感。それは祖父の言っていることなのだ。

(お祖父さんは私の為を思って、強引に神楽家に嫁がせたの?)

孫を想う思いやりの心だったと言うのだろうか。けれど……。

「お祖父さまの考えは分かりました。でも、新しい家庭を作り実家から距離を置かせようとしたなら相手を間違えました」

意を決して言うと、祖父は怪訝な顔をした。

「なぜだ? 美琴は子供の頃から神楽一希を慕っていただろう?」

祖父のその発言に、美琴は動揺する。

一希への気持ちは、心に秘めたものだったから、誰かに知られているとは思わなったのだ。
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