仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「……彼は私を疎ましく思っています。私もそんな彼と仲良く暮らしていくことなんて出来ません。お祖父様が思っているような、温かな家庭なんて到底無理です」

「一希君からそう言われたのか?」

疎ましいどころか、必要ないとはっきり宣言されている。

「……態度で分かります。言い争いも何度かしてしまいました」

「言い争うばかりでなく、話し合うことで、距離を縮めて行きなさい」

「無理です。どうして、初めから今の話をしてくれなかったのですか? せめてお見合い相手を選ばせてくれたらよかったのに……」

一希以外の相手なら、少しずつ夫婦になれたかもしれない。

(でも、一希には他に大切な人がいる。守りたい相手が……)

観原千夜子の件を話してしまおうか。そんな考えが浮かんだとき、祖父がゆっくりと立ち上がった。

「お祖父さま?」

まさか、一希の所に何か言いに行くのだろうか?

そう不安になったけれど、祖父は部屋から出て行くことはなく、続きの間にある戸棚の引き出しから、封筒を取り出しそれを手にすると戻って来た。

「これを見てみなさい」

祖父は机の空いているところに、封筒を置く。

「これは?」

雑誌が入るような大きさの茶色く硬い封筒は、見た感じ古いもののようだった。

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