仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「答えられないのか?」

「……答えないといけないの?」

言い訳は通用しないだろうが、やはり正直に言いたくない。

「毎月の経費が不足しているのなら増すしかないが、理由は必要だ」

再び視線を上げると、一希はまるで見定めるように美琴をじっと見つめている。

「今まで通りで問題ないわ。恵美子さんの話は気にしないで、今後は家に電話をしないように言っておくから」

実家の問題に一希を関わらせる気はなかった。

一希も美琴の意向に気付いたのか、顔をしかめる。

「そうはいかない。継母からの連絡が無くても一度話し合おうと思っていたことだ」

「話し合い?」

「そうだ。ろくに身なりも整えずに何に金を使っている?」

執拗な追及に息苦しくなる。

「悪いことに使ってるわけじゃないし、借金だってしていないわ。私はお金の使い道を細かく全て一希に報告しないといけないの?」

「そうは言っていない。だが実際足りないと継母と話しているのだろう? 神楽家に恥をかかせているのが分からないのか?」

放っておいてと強く言いたいが、恵美子の件を持ち出されるとそうもいかなくなる。

(恵美子さん、どうして余計なことをしたの?)

ヘルパーの追加の件についてまだ断りの連絡は入れていない。切羽詰まった訳ではないのに、なぜ電話などして来たのだろう。

口ごもった美琴に、一希が更に問う。

「鈴本さんは入院中だったな。継母と兄弟たちは生活に困っているのか?」

核心に迫られ、心臓がひやりとした。
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