仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
(どうして今日に限って聞こうとするの?)

想いを分かって欲しいと思っていた頃は拒絶の態度を崩さなかったのに。

もし、もう少し前に……同じ言葉をかけてくれたのなら、きっと嬉しくて自分の気持ちを訴えていただろう。

一希が好きだから愛人がいるのが辛かった。

温かな家庭を作りたい。一希ともっと穏やかに話し合いたい。もっと側にいたいと。

でもそれは決して叶わないと知り、諦めたのだ。

干渉しない、期待しないと決心するまで沢山傷ついた。

(今はもう一希に気持ち伝えたいとは思わない)

けれど、彼への愛情も優しい気持ちもすっかり枯れ果てたはずなのに、些細なきっかけで怒りだけは沸いてくるのだ。

ほとんどが観原千夜子がきっかけになる。

(私はまだふたりに嫉妬しているの?)

そんな考えが思い浮かんだが、すぐに振り払った。

(違う。もう嫉妬なんてしない、ただ二人からされた仕打ちが許せないだけ)

そう自分に言い聞かせると、更に怒りが膨らんでいく。

観原千夜子が素晴らしい女性だと思っている一希に、彼女の歪んだ本性を教えたくなった。
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