仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「封筒の中を見たのか?」

「見たわ。封が空いていたから。そんな顔色を変えるくらい見られたくないものだったら書斎にでも置いておけば良かったのに」

しっかりと鍵をかけているのだから。

「わざと置いたんじゃない。急いでいて忘れたんだ」

「一希が忘れ物をするなんて思えないけど……写真はとても楽しそうだった、ふたりで旅行でも行ったの?」

嫌味をこめて言うと、一希は眉間にシワを寄せた。

「誤解するな。あれはそんな写真じゃない、俺たち……いや、俺と千夜子はふたりだけで旅行をしたことはない」

一希はむきになるように、声を大きくする。

その様子に美琴の戸惑いは深まった。

(どうして弁解するの? それに“俺たち”って言わないようにしているみたい……私が文句を言ったから気を遣っているの?)

一体、一希はなにを考えているのだろう。

世間体の為に離婚を避けようとしているのか。

こうやって対峙して予想外の姿を見ると、惑わされ美琴の決意もぐらぐらと揺らぎそうになる。


(一希のペースに飲まれてはだめだわ)

もう大分長く話しているせいか、頭が整理出来ていない。

そもそもの趣旨からずれてきてもいる。

美琴は深呼吸すると気を取り直して言った。
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